主人公の名前がジョンということからもアーヴィングの自伝的小説ともいえるが
本人も否定しているとおり、全く事実ではないということがいえるだろう。
しかしもう本人が言う「もうひとつの記憶」に根付いた成長記という意味で
アーヴィングと同時代の空気を知るうえでは大変興味深い寡作である。
猟師の息子であるジョンは言葉を喋ることができない。
人の少ない町であるからコミュニケーションの欠如は深刻な問題とはならないが
それでもジョンには暗い陰が落とされているのは
ジョンの上空にいつも舞うカラスの群れの描写からしても明らかだろう。
そしてジョンの父ポールは捕らえてきた小熊を誕生日プレゼントとしてジョンに贈る。
あからさまにカラスの数が減っていくことからも読者はジョンの心情を知ることができるが
「ジョンは楽しかった。今日は●●羽。」という描写があまりにもあからさま過ぎて
ファンの間で賛否両論を巻き起こしている。
しかしそのような微細な問題は抜きにしてもジョンと小熊との交流は心温まる話であり
急速に自我を確立していくジョンの後姿を追うことは読む者にも明るい陽を射してくる。
熊というのは一年でもう飼えなくなるものだというが、
ジョンは数年の時を費やし、肥大に肥大を重ねた熊に言葉を教え(覚えなかったが)
寝食をともにし、そしてクライマックスとなる檻から放つシーンへと至る。
熊を放ったそのとき、やっぱりそうなんだろうなあという大方の予想どおりに
ジョンを食べてしまった熊の話はある種現代的な教訓として受け継がれるべきであるが
「結局ムリなものはムリ」というようなことわざはかなりあるので
忘れてもけっこうなことであろうよ。
(2006年11月未読ながら著)