満員電車にて

いつも利用している電車はとても混む。
ピーク時の乗車率は200%超だとニュースでいっていたくらいの電車だ。
夜も深まるとずっと混んでいる。
毎日乗るとそこそこ慣れる。


最初のころはおもしろがって色々実験をしていた。
柔よく剛を制すの格言どおりに体を柳のようにして
押し寄せる波に少しも抵抗せずつり革にかけた手だけでバランスをとると
押し寄せた波の人は「そこに壁がない」状態にびっくりしこけたりする。
3人くらいこかせたところで悪いなという感情が芽生えたのでやめた。
えらい。
しかし「柔」の観点からいくともう少しこかせてもよかったのではないかと思ったりもする。


まあ何にせよ、慣れるものだし、
あまり迷惑をかけないようにみんな乗っているのだ、ということ。
それでも慣れてない人も乗るわけで、
今日は30前くらいのカップルの隣に乗り合わせたのだけど、
男の方が妙に体をこわばらせて
周囲の人をにらみながら
ぐわんぐわん、体を動かしてスーツのベストポジションを探っていた。
「しわになる」
「しわになっちゃう」
「しわになるよ」
と恋人に言いながらぐわんぐわん。
隣にいたぼくはそれがいやで。
みんなきつい思いして乗っているのだから、
しわしわ言うなよ、
多分周囲の人もそんな思いだったんじゃないかなあ。
そんなねえ、そんなスーツでねえ、
しわしわ言うなよ、って。
タキシードとかならね、そらすんまへん、ってなるけどねえ、
タキシードで満員電車ってなかなかないか。
シルクハットをかぶって満員電車に乗るというのはどうだろう。
いや、もっといえば帽子からハトを出しながら満員電車に乗るのは。
ガタンゴトン。
バサバサバサ。
ガタンゴトン。
って。


もうデートも終わった時間だしもういいじゃん、あとはセックスだけじゃん、って思ってたら
恋人の後ろにぴったりと張り付いた男は顔を恋人の肩の上に乗せて
前戯のような耳元トークが始まった。
見てしまう。
ぼくはやはりこういうのを凝視してしまう。
昔、近鉄大阪線で向かいに座ったカップルで
男が普通に喋りながら恋人のおっぱいをもむのも見ていた。
そういうのも「おっ。始まったな。」と見てしまう。
「おめでたいな」とか「縁起もんだな」とかそういう感覚で見てしまう。
恋人同士ドキドキしている。
2人の世界に入っている。
しかし今回がいつもと違ったのは、男の手がなぜかぼくの手にぴったりくっついていたことだ。
このことで3人の世界ができあがってしまった。
そしてぼくもドキドキしてみた。
女の背中に男、男の背中にぼくだ(満員電車でそういう体勢だったのだ)。
3人だけの世界。
世間の風は冷たいけれど、
こうやっている時間は一瞬だけれど、
この一瞬こそが永遠なんだ、
そう信じていた。
なのに、あんなことが起きるなんて!(まあ普通に降りた。)


今日は石川くんと年末年始を打ち合わせた。
2007年も色々とおもしろそうだ。