フランジェリコの話

先日の話だが、ヘーゼルナッツのリキュールを飲んだ。
と書けば貴族のブログのようで心持嬉しいものだが、
飲み会の席で注文しなめさせていただいたというのが正直なところだ。
まあ何もお願いしてなめさせていただいたわけではない、
注文した方がおいしさをみんなに広めようと薦めてくださったのだ。
ちょっぴりなめると高級なチョコレートの味がして
少し飲むとアルコールの力強さでまた味が変わる。
飲み物というよりはデザートのような楽しみ方をした。


別の方はナッツアレルギー体質らしくて断っていた。
じんましんが出たらそれはいくら旨くても大変だ。
しかし注文された方はその後酒量を増やすにしたがって
何度も何度もヘーゼルナッツのリキュールを薦めていた。
彼女はアレルギーだからと周囲の方が断っても
あきらめずにそれは何度も何度もリキュールを薦めていた。
次第にその姿に感動した。


じんましんの壁は高い。
楽しく飲む酒に対して、生得的疾患はあまりに重い。
天秤にかけた瞬間にヘーゼルナッツのリキュールは上へと傾いて、
その勢いでどこかへ飛んでいってしまうことだろう。
その様子は後にテリー・ギリアム辺りが映画化することだろう。
どう考えてもじんましんの勝ちだ。
しかしそれでも執拗にリキュールを薦めるのだ。
現代のドン・キホーテだった。


次第に周囲の空気も変わってきた。
もういいじゃない、じんましん出てもいいじゃない、
周囲がそんな雰囲気になってきたところで
当の本人も、
私、じんましん出てもいい、と決断しリキュールを飲み干す。


ドラマでないからそんなことになるわけもなく、
薦める度に、だからー、アレルギーだって言ってんでしょ!
と周りからたしなめられバカにされる。
越えようとしている壁があまりにも高いことと
越えた先に待っているものの価値の無さが可笑しみを増大させる。
その後もどんどんおもしろくなる。
机の上にはデジカメが出てきて撮影される。


同席していたネットモダチシャー勝俣と昨日再会したときに
まずお互いの二日酔い状況と二日酔い対策の効果、
それに飲み会の顛末を報告しあってから
あの人が飲んでいたのは酒ではなくて毒なのではないかという話をした。
もはや毒。
みんな酒を飲んでいる中、一人だけ毒を飲んでいる飲み会。
男気のある話だ。


酒の名はフランジェリコという。
人の名は教えてもいいが怒られる覚悟ができてからだ。