遊郭を歩く。
父親の話を聞いて一度行ってみようと思い動物園前で降りた。
恥ずかしながら怖くて友人についてきてもらった。
自転車フォークの件の強面の友人であるが
おれも初めてだとびくびくしていて可笑しい。
暗がりが怖い。
申し訳ないが異様に怖い。
柵で囲まれた暗がりの先には線路が延びているように見えた。
線路じゃないか、と柵の間から覗いていると
お、何見えんねんやろか、と
酔ったおっさんが近づいてくる。
勘で曲がると一帯に入ったか、
ぽつぽつと料亭という名のお店が見えてきた。
ああ、これがそうか、と思うと
どっと店も人もあふれ出てきた。
考えてみれば27の男が二人で風俗街を歩いているのは
なんにもおかしいことはない。
これは大丈夫だと安心してからようやく景色に気づいた。
昭和30年代、赤線地帯、
想像するにそれがそのままそっくり残っているのではないか。
赤じゅうたん、ばばあ座椅子、古い店名が入った行灯。
全部同じ店ではないかと思うほど似通っている。
パンパンにお化粧した女性の陰影を蛍光灯が飛ばす。
上沼恵美子である。
東京でM1を見ているときに上沼恵美子が審査員ででてきて
ビカビカ下からライトアップされている顔は真っ白で
白すぎじゃない?
とおかとうのかとうさんがずっとケラケラ笑っていた。
やり手ばばあが呼び込みをする。
おばあちゃん的デザインの座椅子に赤じゅうたんもそうで
料亭というよりはおばあちゃん家だ。
死んだ祖母を思い出した。
お兄ちゃん一万円でいけるで、という意味なんだろうが
ばばあが指を一本見せてくる。
手を振って伏目がちに通ると
なぜかくぐもったままうなり声を上げた、
地獄のような声、
ぐぶぉおおおお!!!
という声が背中越しに聞こえた。
何なんだ。
振り返っても残念そうな指が一本立ったまま。


そういえばバーゲンで服を買いました。