『はやちゃん』

久しぶりの友人に会ったときにとにかく『あまちゃん』は見たほうがいいと力強く説得されたので見る気になった。うちの奥さんが毎回録画していて、最初の方は僕も一緒になって見てたものだから、あとから僕が見るのだろうと思って奥さんも消さずに置いている。かなりたまっているであろう家のHDDをつけてみた。最新作、『あまちゃん(60)』。60か。


思わず遠い目をしてしまったが、60はためすぎた。今から見るのは『あまちゃん(10)』であと50回ある。こうなったら倍速で見るしかない。それと序盤の1分が前回の復讐なのとオープニング曲の1分はもう飛ばす。残り13分を倍速で6分半。もはや『はやちゃん』である。


はやちゃんは倍速ながらもなかなかおもしろい。徹底した方言描写で有名だが、はやちゃんではもはや何を言ってるのかわからず方言部分は全部捨てることになる。しかしそれでもおもしろい。主人公の能年玲奈は方言なので脇に下がることになり、標準語で話すお母さんの小泉今日子が必然的にはやちゃんでは主役である。周囲とのやりとりはよくわからないながらもそれでも小泉今日子、そして宮藤官九郎NHKはすごい。人間味あふれる描写にやっぱりホロっとさせられる。ホロッとしたと思ったらもうすぐに次の場面である。はやちゃんは情緒に浸るヒマもなくこのドライさがいい。いいというか他を知らないだけなんだけども。物語が進むにつれて、おっ、と思ったことがある。出演者の大半がはやちゃんについてこられないながらも、一人だけ聞きやすい者がいる。平泉成である。あのゆっくりためた喋り方がはやちゃんだとちょうどよい。「逆に聞きやすいね」とふだんおそちゃんを見ている妻が言ったほどだ。ああ、おまえもそうなのか、と思う。平泉成ははやちゃんの世界に生きているのだ。


はやちゃん、その圧倒的なスピード。はやちゃんを2時間ぶっつづけで見たあとは現実世界が遅く感じられ、生きるのが辛いほどである。また今夜も6分半のあの世界に行きたい。あの速いあいつらに会いたい。