eyes

しれっと更新。
友人の石川君の家に泊まった。


昼頃に外で飯でも、とかなり大きな郊外型の商業施設に行き、
テラスでいいかげんなものを食べて走り回る子供を見ていた。
あの人たちは走ること自体が楽しいのだなあ、とかそんなことを喋っていた。


テラスのそばには扇形の小さなコンサートスペースというか
浅いプールの上に小さい島とそれを囲むような客席があって

POOL

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この写真集のようにきれいな水色をしていて
子供がめいめい自由にはしゃぎまわっていた。
これからeyesという男性3人のコーラスグループ(という紹介だった)がライブをするという。
大分前からファンの方々が陣取りをしていたので
帰り際に少し見ていこうか、と見に行ったのだが、
当のeyesさんたちはまだいなくて子供がはしゃぎまくっていた。
大入りの客を前にすり鉢形の底の水辺ではしゃぐ子供たちはそれ自体がショーのようだった。


棒を持つ少女はプールの底に棒を挿して深さを確認していた。
ひとつ挿しては目もくれずに次の一棒を挿していた。
排水溝の深さには感動したようで、そこだけは何度も何度も挿していた。


男の子達は変なものを投げていた。
5cm四方の薄っぺらい板のようなものをたくさん持っていて、
仲間うちで投げ合う遊びをしていた。
それが何なのかは全然分からなくて
結局最後まで何かわからぬものを友人に大量に投げつけるという遊びをしていた。


別の少女達は一人がまた別の一人を追いかけていて、
前の少女は後ろの少女に追いつかれぬようにかといって引き離されぬように
何周もプールの周りを走り回っていた。
次第にトムとジェリーは形態を変えていってプールの対岸で
右に動けば左に、左に動けばまた逆に、と追いかけられないようにするコント、
サイレントのコメディのようなクラシックなコントを演じていた。


子供たちを見ているのか見ていないのかほぼ満席の客席。
アナウンスが入り、そろそろeyesが出てくるという。
ステージの奥には通路が見えていて、
ああゆうところから出てくるのだなとみんな思っていたのだが、
出てきたのは棒を持った男の子だった。


棒を持った男の子はやっぱりeyesではなかったようで、
スタッフの方に追い出されていた。


そしてようやくeyesが出てきたが、お洒落で格好の良い男性たちだった。
3人とも各々個性が出た衣装に身を包み、遠くからでも分かる目鼻立ちのよさで、
なるほどこれではさっきの男の子がeyesというのは間違いだな、と思うほど
あちら側の世界の人たちだった。


しかし目を凝らせば真ん中の男性の右手から線のようなものが出ている。
なんだあれは。
思うが早いか、隣にいた石川が「さっきの棒だ。」と叫ぶ。
さっきの棒だった。
先ほどの男の子が持っていた棒だったのだ。
形状といい長さといい、さっきの男の子が持っていたあのいいかげんな棒なのだ。
eyesはあの棒をどうやって手に入れたのだろうか。
まさかeyesは子供からあの棒を取り上げたのだろうか。
それともあの子供が恵まれないeyesに棒を恵んでやったのだろうか。
そこまでは誰も分からない。
それが分かるのは当のeyesとあの子供だけだ。


eyesは棒をその辺にやり、ライブが始まった。
棒、棒、といってるが余りにもいいかげんなどこに落ちていたのか分からない木の枝なので
本当に「その辺にやる」しかないようなもので
それであんなに遊んでいた子供たちは本当に尊敬すべきものなのだ、
あのeyesでさえ、一瞬でその辺にやってしまったのだから。
eyesはきれいな歌声でモニターも何もない粗悪なPAシステムにも負けず
洗練されたハーモニーを生み出していた。
お洒落だわスタイルいいわ歌うまいわでやっぱり違うんだなあと思うほどあちら側の人たちだった。


もう子供たちはいない。
子供たちは空気を読むという大人が最も必要としている力を発揮して、
それぞれのまた別の遊び場に戻っていった。
上手な歌にはあまり興味がなかったようだ。
ステージはプールに浮かんだ浮島のようなところで
ステージと客席の間には当然プール部分があるのだが、そのプール部分に何かがある。
なんだあれは。
思うが早いか、「女の子が持っていた棒だ!」と気づいた。
一番初めに女の子がプールの深さを測りまくっていた(ほとんど同じなのに!)あの棒だ。
客、客、客。
そして棒があって、eyesがいる。
eyes→棒→客へと歌声が届き、客→棒→eyesへと思いが伝わる。
ライブというアーティストと観客とのコミュニケーションの場に
あまりにも唐突に「棒っきれ」があるという事態がおもしろくてしようがなかった。


どうでもいい時間だった。
しかしこのどうでもいい時間というのが好き過ぎてもう死んでしまいたい程なのだ。


そっと好かれる (F×COMICS)

そっと好かれる (F×COMICS)

石川の家で薦められたこれが素晴らしく面白かった。
長い棒を持った女性が鬱々とした日常をささやかな恋心とともに
長い棒をガンガンあちこちにあてながら送る短編が入っている。